Farm, Sea

山が香る魚

Words & Images by Taro Yokoyama (of Rotable)
6月のある朝、5時前、まだ日は昇っていない。定置網漁船、丸友丸に乗り、生暖かい海の風を頬に感じながら沖に向かった。

右も左も山。背後の尾鷲の街のその後ろにも山。

10分走ると尾鷲の街並みはだんだん小さくなり、山々だけになる。

いつも、この瞬間に「あぁ、尾鷲は山のまちか」と実感する。

30分くらい船を走らせて漁場に到着。そこは海の真ん中ではなく、山壁のすぐ近く、20mくらい離れている場所。水深は30mくらいか。

しかけに魚が入り、それをあげるのが定置網。群れの30%が網に入る、サステイナブルな漁法といわれる。
皆が声を合わせてゆっくり網をあげていく。

ちょうど朝日が昇り、空を舞うカモメの白い体に美しいオレンジ色を映している。

ゆっくりながめていたいものだが、皆の意識は海面に集中しており、僕の視線も海面に戻る。

まだ海は深い青と緑、魚の姿は見えない。

網を上げ続けて最初に姿を見せたのはトビウオ。羽が衣のように体のうねりに沿ってゆれ、なんとも美しい。濃い蒼い海に輝く青い背中と美しい白い羽。

魚は海でみると本当に美しい。そして目をこらすと、見えてくる青く光る背をもつイワシ、透明な白い魚体のイカ、そしてカツオ。

カツオは背が発光しているのではないかというくらい光り、海面にイナズマが走っているように見える。

網ですくった魚を船の生簀にいれるもの、寒庫にいれるもの、氷を入れるもの、皆でチームプレーをしている。

漁を終えると、漁師たちが手際よく魚をさばき、ダシをとり、お刺身をつくっていく。港に戻るまでは朝ごはんの時間だ。

今あげた魚をお刺身やお味噌汁にしていく。朝日とカモメをバックにいいロケーションだ。醤油に唐辛子を入れるのが尾鷲の漁師風。これがうまい。

イサキをまず食べた。その瞬間、ぐっとつかまれるような食感と旨味に驚いた。意識をしていたわけでないが、味に山を感じた。

魚に限らず食材は背景にある自然環境からくるものだ。魚に関しても多様な自然条件が味わいの要因になっており、流れる川もその要因の一つ。

ゆったりとした流れをもつ川は山のミネラル分が川底に堆積し魚がさっぱりとした味わいに。

逆に山からすぐ海にながれるような場所では山のミネラル分がダイレクトに海に流れ込み、それが食物連鎖を経て魚の旨味がつよくなると言われている。

どちらが良いというのではなく、海の背景にある川や山は魚の味わいにそういった変化をもたらす。

頭では理解していた概念であるが、今それを初めて味わいとして、体感した。
魚の味わい、視界に入る迫ってくるような山々と海。海から山まで一体として感じられた体験だった。

尾鷲には、その魚を僕たちへとつなぐ魚屋、小さな革命を起こしている若い漁師のチーム、浦々にある神社仏閣とこの地の祭りの文化、海と山、魚、そこから生まれるこの地にいる人たちの物語がある。

森は海の恋人、山に木を植える漁師。海と山の相関を意味する言葉を、皆誰しも耳にしたことはあると思うが、これから自分が味覚を通じてそれを実感した体験を書いていきたいと思う。
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