Words by Jessica Thompson
Translation by Miroku Hina
Images by Claudio Rincon
Artwork by Sofia Solamente
2015年、はじめてのメキシコ行きの飛行機で、私はローカルと隣あった。話すと、第2の都市と呼ばれるグアダラハラへ帰るのだという。

カートが巡回してきた時、彼はテキーラを注文した。
プラスチックカップに入ったそれを受け取ると、ベージュ色のハットの下から無邪気な笑顔をのぞかせ、私に尋ねた。テキーラは好きか。

テキーラは好きだ。でも、まるでウイスキーを味わうように、機内で飲むものだと考えたことはなかった。

テキーラといえば、母国のメキシコから世界中に出回るようになってから、ショットでカッと流し込み、手っとりばやく酔いをまわすアルコールの代表格のような扱いを受けてきた。しかし近年、テキーラの多彩な種類や風味が知られるにつれ、その価値は改めて見直されてきている。

また、原料を同じくするメスカルも、そのスモーキーで複雑な味わいと種類の多さが買われ、今や、クラフト酒やカクテル界隈では、期待の星となった。

テキーラとメスカル。

どちらも、メキシカンの精神を体現したような、大胆かつ、表現力豊かな酒だが、2つの違いはどのように生まれるのだろうか。

双方の魅力を知るべく、私はプレミアムテキーラブランドである「Maria Pascuala Tequila」(以下、マリア・パスクアラ)のオーナー兼ディレクター、Ruth Orendain(以下、ルース氏)と、メスカルの文化を維持、促進しているNGO、「Mezonte」(以下、メゾンテ  創始者:Pedro Jimenez Gurria) のマネージャー、Zulema Arias(以下、ズレマ氏)を訪ねた。



起源



「すべては、アガベから始まります」


アガベは、熱く乾燥したメキシコの大地に、肉厚でたくましい葉を広げる、多肉植物の一種だ。サボテンとは異なり、中心には、「ピニャ(piña)」と呼ばれる固い芯がある。パイナップル(Pinapple)に似ていることから、ついた名前だそうだ。

テキーラやメスカルが作られる以前、メキシコには、パルクと呼ばれるメキシコ(そしておそらくアメリカ大陸)において、最古の歴史をもつとされる酒があった。

パルクは前出のピニャからアグアミエルと呼ばれる樹液を抽出し、 発酵させることでできる濁り酒で、アルコール度数は2〜6%ほど。酸味と酵母の風味が感じられ、マヤやアステカといった、古代メソアメリカ文明の頃から親しまれていたようだ。

1500年代に入ると、おそらくスペインのコンキスタドールと呼ばれる探検家たちや、マニラ・ガレオンという貿易船をとおして、メキシコに酒を蒸留する技術が伝わった。同じ頃に、もともとあったアグアミエルを蒸留した酒、つまり、テキーラとメスカルが生まれたというわけだ。

アガベの種類

メキシコには150種を超えるアガベが生育している。

しかし、テキーラとなるのは、その中の1種のみ。ブルーアガベ、もしくは、アガベ・テキーラとも呼ばれ、テキーラ発祥の地として名高いメキシコのハリスコ州で豊富に栽培されている。

ルース氏は、「私たちのテキーラは、ロス・アルトス・デ・ハリスコと呼ばれる高地で育ったブルーアガベを使用しています。この地域の土壌には、アガベに必要な栄養素が豊富に含まれているのです」と話す。

かたやメスカルは、実に様々な種類のアガベから作ることができる。

「メスカルは52種ものアガベから作ることができ、非常に奥が深い」


「メスカルは52種ものアガベから作ることができ、非常に奥が深いと話すのは、メゾンテのズレマ氏だ。
メスカルにもっともよく用いられるのは、エスパディンと呼ばれる品種で、生産の90%を占める。その他には、トバラやコヨーテ、ジャバリ、アロクエント、シエラネグラ、テペクテートといった品種が人気だ。

実はアガベの樹液を蒸留させてできるという意味では、テキーラも、メスカルの一種。スコッチが、ウイスキーの一種であるのと同じだ。

製造工程


では、テキーラとメスカルの製造工程はどう異なるのだろうか。
まずは、Jimadores(ヒマドレス )と呼ばれるアガベの栽培者たちが、原料となる芯、ピニャを露出するため、アガベの葉を切り落とす。次に、切り出したピニャが蒸留されやすいように、半分か4分の1の大きさにカットし、デンプン質が糖分に変わるまで、調理する。

この調理方法だが、テキーラを作る場合は、ピニャを蒸すのが主流だ。伝統的には、ホルノと呼ばれる石やレンガでできた窯で24〜48時間をかけて蒸していたが、近年ではオートクレーブという巨大な円筒形のステンレス製圧力鍋も使われるようになった。クラフト蒸留酒としてはホルノを使うのが理想的だが、一度に多くのピニャを調理できるのに加え、7時間程で仕上げるスピード感が人気のようだ。

しかし、マリア・パスクアラでは、「時間をかけた独自の調理法を守るため、今でも伝統的な石窯でピニャを蒸している」とルース氏は言う。

蒸したピニャを冷ました後は、甘い樹液を絞りだすためにミルで小さく砕いていく。現代では、タホナと呼ばれる大型の石製ミルで砕く生産者はまれで、多くが機械化されたローラーミルを使っているようだ。
絞りだした蜜を発酵させ、蒸留してテキーラができる。ルース氏は、「私たちは、セミオープンタンクで発酵させるため、空気中にある酵母をしっかり管理できます。蒸留プロセスでは、銅かスチールのスチルを使用しています」と教えてくれた。


一方、メスカルを作る場合、ピニャの調理方法は大きく異なる。まずは、地中に掘った岩窯にピニャを置き、木屑や木炭、葉などで覆って数日間にわたって燻製する。 「メスカル」という言葉は、ナワトル・メヒカリ(Nahuatl Mexicali)つまり、「窯焼きされたアガベ」に由来しているそうだ。


こうして抽出したピニャの甘い樹液を、残った繊維ごと木製の樽に移し、また数日間、発酵させる。

それから、銅製、または陶器製のスチルで蒸留して繊維を取り除く。再度、蒸留の過程をたどり、45度以上の酒、メスカルになるのだ。


主な生産地

テキーラの規制委員会に承認された正式な生産地は地球上に5箇所しかない。メキシコ国内の8割以上ものブルー・アガベが生育するというハリスコ州と、その周辺に位置する、グアナファト州、タマウリパス州、ミチョアカン州、ナヤリット州だ。

メスカルについては、オアハカ州、ドゥランゴ州、グアナファト州、ゲレーロ州、サンルイスポトシ州、タマウリパス州、サカテカス州、ミチョアカン州、エブラ州の9つの州が正式な生産地とされている。最も多く生産しているオアハカ州には、こんな有名なことわざもある。「Para todo mal, mezcal, y para todo bien tambien!(良いことがあれば、メスカル。ついてないときも、メスカルを飲もう!)」。

分類、カテゴリー

テキーラもメスカルも、熟成年数によって分類される。
テキーラは伝統的に3つの種類に分けられている。

1種目が、ブランコ(別名、プラタまたはシルバー)と呼ばれる、蒸留後0〜2か月で瓶詰めされた透明なホワイトスピリット。

2種目が、レポサド(熟成・休ませたという意味)。この名称を名乗るには、メキシコ政府が定めた規定により、オーク樽で2〜12ヶ月熟成させる必要がある。

3種目が、同じくオーク樽で最低1年以上熟成させたアネホ(古いという意味)。3年以上熟成させたエクストラアネホもある。

ホベン(若い、金色という意味)というタイプ知られているが、これはまた別で、ブランコとレポサドを混ぜたか、色や添加物が加えられたものである可能性が高い。
ルース氏は、「私たちが作る3種のテキーラには、それぞれに独特の特徴があります」と話す。

「まずブランコには、純粋なアガベの風味や味わいが反映されています。それからアネホ。私たちが作るアネホは、18ヶ月にわたりフレンチオークの樽で保管され、かすかなカカオのような味わいと、アーモンドのような香りが感じられます。さらに熟成させたエクストラアネホは、非常に滑らかでエレガントな味わい。フレンチオーク樽で4年間熟成させてあり、ローストしたカカオ豆と繊細なオークの香りが特徴です」。

同じくメスカルも、年齢に基づいて3つのタイプに分類される。ホベン(熟成年数0〜2か月)、レポサド(同2〜12か月)、そしてアネホ(同1年以上)だ。


味と香り

大まかに言えば、テキーラはブルー・アガベの自然な甘さから、滑らかで甘い風味に仕上がっており、メスカルは燻製されていることから、より香ばしく、スモーキーと言える。
メスカルに関しては、使用されたアガベの種類によって、風味にも豊かな個性が表れる。例えば、エスパディンであれば、甘くフルーティーな風味と、わずかなココナッツのような味わい、山岳地帯で育つトバラなら、木や野草のような香りがする。グイシュという円筒形のアガベは複雑な風味、そして、大きな葉が珍しいテペゼッタテからは、ハーブの香りがクリアに感じられる。

アガベを蒸す、または燻製するという製造工程の違いから、テキーラとメスカルの風味に違いが出るのは納得できるが、味や香りに大きな影響を与える要素はそれだけではない。原料となるアガベの樹齢や、製造時に使用される容器の素材、酵母、メスカルで言えば繊維と一緒に発酵させるかどうかなど、様々な要因がテキーラとメスカルの味を決めているのだ。

メゾンテのズレマ氏は「メスカルは尽きない種類の豊富さが魅力。いろいろと試すたびに、新しい発見があるでしょう。アガベの種類だけでなく、その生育地や作り手の腕前が、味の違いを生み出しています」と語る。

「それに加え、メスカルには、調理時間を調整したり、地域の果物や生物、ハーブを加えてみたりと、様々に挑戦できる懐の深さがあります」。

おいしい飲み方

テキーラもメスカルも、楽しみ方は無限大だ。
ロックはもちろん、常温、水割、ソーダ割り、カクテル、ミキサーなど、どう飲むかはあなた次第と言える。

ルース氏は、「私たちが作る3種類のテキーラは、いずれもストレートで少しづつ楽しめます」と自信を見せる。ブランコは摂氏12〜14度、アネホとエクストラアネホは、摂氏16〜18度の常温で飲むのがおすすめだそうだ。さらに、「冷やしたマリア・パスクアラのブランコと寿司はよく合いますし、少し抹茶を混ぜてカクテルしてもおいしいですよ」と教えてくれた。

一方、ズレマ氏は「メスカルとメキシカンチョコレート、もしくは、メスカルとチーズの組み合わせがお気に入り」だそうだ。

メスカルはよくカクテルにも使用され、その一杯に深みと複雑さを加えてくれる。

しかしズレマ氏は、メスカル初心者の人や、飲んだことのないメスカルを飲むときは、「まずストレートで味わってほしい」と言う。最初に香りをかぎ、小さめの一口を含んで、ゆっくりと味わう…。すると、味や香りが口の中で豊かに広がっていくだろう。


Jessica Thompson(ジェシカ・トンプソン)
Jessie a writer, cookbook author and food coordinator living in Tokyo. Her curiosity and love for Japanese flavours and underlying philosophies have taken her to 19 prefectures (and counting!) in search of local treasures—ingredients, people and experiences.